天職。

ポークランチョンミートの『 HELL’S KITCHEN(ヘルズキッチン)』では、夫が一人で料理を作っています。

どんなジャンルの料理ですか?とよく尋ねられるのですが、ジャンルは特にありません。凝り性の夫は気にいるとなんでもハマる性格なんです。15歳からずっと飲食の仕事をしてきました。ですから、自然と料理の幅も増えてきたのだと思います。日本人が好きなメジャーな料理は特にのめり込むことが多かったです。

お好み焼きにハマっていた時期もありました。ですから彼が作る生地は本当に美味しくて家族の間でも大人気。ハマったきっかけは今まで食べたことがないくらい美味しかったお好み焼き屋さんに行ったこと。ただそれだけです。

あ、美味しい焼き鳥屋さんと出会ってしまったのは19歳の頃でした。それがきっかけで『焼き鳥』にも随分とながいこと熱をあげました。四六時中、「焼き鳥愛」が止むことはなかったですね。

トマトソースも随分とハマりました。

何故だか時間と手間暇をかける料理が特に好みの様で、パンチェッタも1週間かけて作ります。

そのせいで家族の食事を作る時間が無くなります。「今日は自分たちで勝手に巻いて食べなさい」と手巻き寿司の夕飯。それはそれで嬉しいんだけれど・・・。

もともとは中華料理屋からスタートした彼の料理人生。お金もなくてひもじかった食べ盛りの10代の頃、唯一任された「賄い」でチャーハンを作るのが楽しみだったそうです。何故って?チャーハンはチャーシューをいくら使ってもいいからです。肉が食べたかった彼には超超超ごちそうでした。今でもチャーハンは彼にとって特別なものです。夢が叶って東京で持った自分の店でも勿論メニューに入れていました。

中華と言えば、四川麻婆豆腐もかなりのめり込んだ時期がありました。

餃子も然り。居酒屋の厨房なのに、餃子専門店の調理道具は全て揃えていたくらいです。処分しないで持ってくればよかったな。鉄鍋だけは大事に宮古まで運びましたが・・・。とにかく、中華は作るのが好きで、今でも当時の先輩たちの手のさばき方や厨房の匂いを覚えているそうです。今と違って仕事は見て覚えろの時代ですから。

今ランチで提供している鶏白湯宮古そばも、そんな彼のしつこさがにじみ出ています。もともとは宮古そばの生麺をとんこつスープで食べてもらいたい、から始まったのですが、まあ、何しろ島では知名度のないポークランチョンミートです。それほどお客さんは来ません。意外にも鶏白湯スープの方が女性に人気で、とんこつは二番手になってしまいました。それでも彼の異常な試作品作りは止まりません。今に始まったことではないのですが、「もっともっともっと!!美味しいものを!!」にいつも取り衝かれちゃうんですね。ラーメンは東京時代から随分と研究してきましたが、見事にその熱が復活してしまったようです。今はあっさり系のスープへの愛が深まりつつあります。完成したらランチに登場しますのでお楽しみに~~。

そんな中でも、やっぱり一番好きなのは「北海道みそラーメン」のようです。彼の好みの味噌ラーメンはもう出来上がっていますので、召しあがりたい方はこっそり前もってご連絡をくださいね~~。

私はそんな夫を見ていていつも羨ましく思っています。彼が選んだ仕事は一生をかけても終着点がありません。次から次へと湧き上がる「意欲」は彼を生き生きと輝かせているようにさえ見えます。

これからも、この「意欲」という火を消さないでいられるよう、内助の功で私は試食を続けていきたいと思いま~~~す!!エヘッ。

静佳日記 **************

その日は夫のほうから言い出した。

忙しくしている私を見て、気の毒に思ったのだろう。いや、火山が爆発するのを恐れたという方が正しいか。とにかく、「海へ行こうか」という魔法の言葉が彼の口から飛び出した。この魔法の言葉は、もしかしたら「綺麗だね」という女性が喜ぶ最上級の誉め言葉よりも私を喜ばすのには効果的かもしれない。

「やったーーーーーー!!!」

その瞬間から頭の中はもうどこの海にするかで忙しいのはいつものこと。永年の「あ・うん」の呼吸でこの誘いを私が断るはずがないと踏んだのか、もう、夫は準備を始めていた。

「とにかくあっちの方にしよう!!」

と、風を見てなんとなく決めて出発。アウトドア遊びの歴は長く、準備は手慣れたもの。というか、すでにいつでも用意されているといった感じだ。思い立ったらすぐに海。こんな生活にあこがれ続けた私にとってこの島はパラダイス。とにかくどこへ行っても自然を満喫できる環境は心にも優しい。

風は見たが潮を見忘れていたため、最初に向かったビーチは泳げなかった。

次に向かったのは物凄く久し振りのビーチ。ワクワクする。

到着すると、空を飛行機が通過した。飛行機が近いのも島のいいところ。

宮古の海の中はどこもかしこもお花畑。そして、当り前だが島の人口よりはるかに多い魚達。お花畑に住んでいる。

キノコのような珊瑚。

小魚は群れを成す。雑魚はとかく大勢でつるむのと一緒。一人の力に自信がないから。

クマノミはイソギンチャクで守られている。だから彼らはそこから離れない。

食事の用意をしているお母さん、じゃなかった夫が岸辺で待っていた。

「今日のごはんはジンギスカンだよ~~」お母さんが得意気に言った。

なんと塩にぎりまで用意されていた。

こんな最高なお昼ごはんがあっていいものだろうか。目の前の海を眩しく見つめながら思った。

「あとはこれが本物のビールだったらパーフェクトだったね」

医者にとめられているため苦肉の策のノンアルコールビールをプッシュっと開ける。

『幸せは人に与えてもらうものではない』

大昔に職場で聞いたフランス人の言葉を最近よく思い出す。自分が幸せだと思える時間を自分で持つことが大切なのだと解釈している。幸せは自分で手に入れるもの、そして人に押し付けてもいけない。

そしてそう思える時間を増やしていくことがいい人生の過ごし方だと私は思っている。